箸の持ち方と指導するタイミング

 今回は作業療法で相談の多い、箸の持ち方、始める時期、練習方法などについてご紹介して行きたいと思います。
 箸は日本で生活する上で獲得する方が望ましい動作であり、他のお子さんと比較して気になる動作の一つです。

 特に、箸を獲得する前にフォークやスプーンを獲得する事で、お子さんにとっては必ずしも獲得しなくても良い動作となり、モチベーションが上がらない可能性もあります。その為、苦手意識が有ると箸獲得を遠ざける原因になります。

 そんな箸の動作を指導するステップについて説明します。

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動画の構成

  1. 箸を始める時期
  2. 正しい箸の持ち方
  3. 発達特性をお持ちのお子さんへの指導方法

上記三点の順番でお伝えしています。

箸を始める時期

・スプーンやフォークが下から握れる。
・ピースができる。
・箸に関心がある。

 箸を始める時期の話ですが、所説ありますが5歳頃に形となり、6歳から10歳にかけて完成すると言われています。

れれ?箸って2歳頃からやれるようになるのではないの?

 確かに関心を持てるお子さんであれば2歳くらいで獲得されるお子さんもいますが、獲得と関心をもってやりだす年齢には差異があることをはじめにお伝えしておきます。
その上で、当ブログでお伝えするのは手の機能的な面から説明して行きたいと思います。
 お子さんの療育を考える上での年齢はあくまで目安であり、お子さんの手の機能の状況に合わせて変化します。

 それは、意欲の高い事柄は身体機能が追い付いてなくてもチャレンジ出来ますが、意欲の低い事柄に対して身体的に難しい状況であるにも関わらず、他のお子さんと比較され、失敗体験が先行してしまうと、お子さんの自尊心を大きく傷つける可能性もあるからです。

スプーンやフォークが下から握れる。

 まずは、前腕の回旋手関節の動き(わかりやすい様にまとめて手首の動きと表記します)の話です。

 基本的な持ち方につながってきますが、スプーンやフォークを上から持って行っている時期は手首の動きが十分ではない可能性があります。

 手根骨と呼ばれる骨が十分にできていない時期などは操作物品(スプーンや鉛筆など)をしっかりと握って、肘や肩の関節を使って物品を操作する時期です。

 スプーンを下から握ってすくい上げる動作ができていると言うのは、手首の動きが出来てきている目安となります。

ピース(チョキ)ができる。

 今度は指の機能の話です。指は筋肉の都合上すべての指が一緒に動く方がやり易いのですが、箸は各指が別々に動く(分離運動)がポイントとなります。

 ピースを行う事で、人差し指と中指は伸びて(伸展)して、薬指と小指を曲げる(屈曲)、親指は曲がった薬指と小指の上に乗る形となります。

 この時の親指の動きを対立動作と言いますが、この動きが出来る事がポイントです。

箸に関心がある。

 家庭環境や保育園、幼稚園などで、周りの方が箸を使っている様子をみてお子さんは使ってみたいなどの気持ちが生じる事があります。

 全く関心が向かない状況で無理やりスタートする事は難しいと思われます。
関心が向かないお子さんに対しては、ゲーム要素を取り入れる、いくつかの食物のうち、数個だけ箸でやってみようと促す。

 フォークやスプーンと違い、持ち替え無しでほとんどのモノが食べれるメリットを伝える。

 ラーメンが好きな子に…箸じゃないと食べれないよ!など(笑)色んな手法を用いて関心を引きます。

正しい箸の持ち方

 箸を指導する時に親指の位置がポイントとなります。そこをベースに解説して行きます。どっちの箸から教えた方が良いか?と言うとお子さんの理解にもよるのでわかり易い、やり易い方からで良いと思います。

 主観的ではありますが下の方から教えた方が成績が良いのでそちらから解説して行きます。

  1. 下の箸
  2. 上の箸
  3. 注意点

下の箸

 箸の上から1/3ほどの場所を人差し指付け根、薬指の横側(つめの横)程に当てます。

 そして、その中間ほどの位置に前述の親指の対立運動を用いて、親指の先から二番目の骨の部分ではさみます。

 これで下の部分は完成です。

上の箸

 上の箸は鉛筆を持つように親指の先端と中指のつめの横、人差し指のお腹の部分で支えます。
 この時に両方の箸の尖端がそろう様に教えてあげて下さい。

 箸動作の中で親指は両方の箸に関与する為、親指の対立運動に関わる機能が十分でないと箸がクロスするなどの原因になります。

 ここが年齢ではなく、手の機能から箸を練習する時期を決めたい理由となります。
一度覚えた(プリンティング)動きを修正して改善する(リプリンティング)事は難しく、慌てて指導した結果、適切な持ち方の指導が難しくなるケースがあります。

注意点

 あまり形に拘りすぎてもお子さんのモチベーションを下げることになります。

 家庭の方針などもあると思いますし、日本でも結構な方が厳密には正しいとは言えない持ち方をしている現状であります(私もその類ですが)ので参考適度に考えて頂ければ幸いです。

 本当に必要であれば年齢が上がった後でも、本人が修正する事もありますので慌てないで下さい。

発達特性をお持ちのお子さんへの指導方法

 発達特性をお持ちのお子さんの特徴として、見て模倣(マネっこ)する事が苦手な傾向にあり、見て模倣出来ないが故に関心が向かいにくい事も多々あります。

 そこで模倣が苦手な場合には、ポイントをわかり易く伝える事が重要となります。
ここは当施設の先輩方の取り組みを紹介して行きたいと思います。

 ポイントは人差し指と中指のセット薬指と小指のセット親指が大きく分けて違う動きをする事がポイントです。

 概ねの動きはエジソン箸と呼ばれる市販の矯正箸でも可能なのですが、薬指と小指の認識が誤って学習してしまうケースがある為、より認識しやすい形を指導します。

対立バンドと屈曲ロール

 特に難しい対立動作をバンドで保持しますが、親指尖端への補助はなく、自力で支える構造となる為、親指への力の入れ方を認識しやすく学習をしやすくなります。

 屈曲ロールを薬指と小指のセットに握ってもらう事で人差し指と中指のセットの動きと分離する動きを認識しやすくなります。

 お子さまの状況に合わせて対立バンドを外し、屈曲ロールを外す段取りを施工します。当院の先輩方の研究によると6歳程のお子さんで1ヵ月程度で優位に変化が見られている実績があります。

引用文献「広汎性発達障害児の知的機能が屈曲保持ロール,対立保持バンドを用いた箸練習に与える影響」

引用元:J-GLOBAL 科学技術総合リンクセンター

 この訓練方法は例であり、他にも素晴らしい方法があるかと思います。

おわりに

 集中力や座位姿勢、視機能の課題により難しくなっている場合もありますので、他のお子さんができるから……などの理由で本人に厳しく指導する事は適切とは言えません

 当ブログの解説はお子さんの練習の為と言うよりは、上手く行かない理由を理解する為にと言う想いで執筆しております。

 どうか暖かい目で指導をお願いします。

 特性により、時間がかかる場合や長く練習出来ない場合、俗に言う正しい持ち方を獲得出来ない場合もありますが、困った時には専門機関にご相談下さい。

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